細谷功著、「具体と抽象」を取り上げます。
本書の目的は、p.14に明確に書かれています。
本書の目的は、この「抽象」という言葉に対して正当な評価を与え、「市民権を取り戻す」ことです。
具体と抽象。具体的な説明はわかりやすくて好まれ、抽象的な話は難しく感じられるのか敬遠されがちです。
ですが、本書を読んで抽象とは何かを考えてみると、実はどんな人でも普段から気づかないうちに抽象的な話をしたり、抽象という概念を使ったりしていることに気づきます。
具体と抽象の間を往復しながら考えること。また2人の人の一方が抽象レベルの話をしているのにもう一方の人が具体レベルの話をしていると永遠に話がかみあわないこと。
この2つの概念を意識することで、思考の幅がより広がったり、これまで理解できなかったことがわかってくるかもしれません。
「具体」とは?「抽象」とは?
まず、「抽象」するとは何か?
簡単にいうと、複数のものや事柄から共通点を見つけることです。
例えば、欅や桜や松をまとめて「木」と表現したとき、木は欅や桜や松を抽象したことになります
そして、「具体」とは、この欅や桜や松のことです。
「具体」と「抽象」との関係はこのようなものですが、両者は相対的な関係にあります。
この例では「木」が抽象した言葉ですが、「植物」という言葉を持ってきたとき、「木」は「具体」ですし、「木」や「花」や「草」を抽象したものが「植物」である、という関係にあります。
「抽象」とか「抽象化」といった言葉は非常に難しいことを述べているように見えますが、このように普段よく使う言葉に現れるものです。
本書のテーマは、タイトルの通り「具体と抽象」です。
序章と終章とを含めて、22の章でさまざまな観点で「具体と抽象」を取り扱います。
それぞれの章は短く完結な説明ですので、すぐに読めるでしょう。
会話がかみ合わない原因
第8章で扱われている話です。
上司と部下との間で仕事の話をしているとき、どうにもお互いに会話がかみ合わない。
その原因は、抽象度という軸で、どのレベルの話をしているのかがずれているのかもしれません。
抽象レベルで相手より高いところが見えている立場と、具体レベルでしか見えていない立場との違いです。
場合によっては、一見してまったく正反対の言い合いになる、「永遠の議論」(本文より)になってしまうこともあります。
せっかく本質を捉えた発言をしているはずなのに、具体レベルでしか見ることができない立場でそれを聞き、解釈されると、伝えたいことがうまく伝わりません。
聞く相手がどのレベルで物事を考えられるか、よく見極めることが大切です。